税制改正
2017年5月24日 水曜日
平成29年度税制改正 資産課税編 その3
「相続税(贈与税)の納税義務の見直し」
1、 趣旨
経済活動の国際化への対応と租税回避の効果的な抑制を目的として、国外財産に対する相続税等の納税義務の範囲の見直しが行われました。国外に居住する日本人(非居住無制限納税義務者)の納税義務を拡大し、租税回避行為を抑制します。一方、駐在等の一時滞在の外国人等の納税義務を緩和し、高度外国人材の受け入れを促進します。
2、概要
(1)国内に住所を有しない者であって日本国籍を有する相続人等に係る相続税の納税義務について、国外財産が相続税の課税対象外とされる要件を、被相続人等及び相続人等が相続開始前10年(現行は「5年」)以内のいずれの時においても国内に住所を有したことがないこととされました。これは、国内に住所はないが日本国籍はある贈与者と受贈者の双方が、5年超国外に住んでから贈与(相続)するなどの租税回避を抑制するためです。
(2)国内に住所・国籍がない者が、過去10年以内(今までは5年以内)に日本に住所があった者から相続などにより取得した国外財産が日本で課税されることになります。これは、国外で出生し日本国籍を取得しなかった子に対し、一時的に国外に住所を移した上で国外財産を贈与(相続)するなどの行為を想定したものです。
(3)被相続人等及び相続人等が在留資格をもって一時的滞在(国外に住所を有している期間がそう青く開始前15年以内で合計10年以下の滞在をいう。)をしている場合等の相続税については、国内財産のみを課税対象とすることになりました。これは、一時的に日本に住所がある外国人同士の相続などの場合に、国外財産に日本の相続税が課税されないようになれば、高度外国人材などの受入れ促進につながることから改正されました。
(注)いずれも贈与税も同様に改正されています。
3、適用時期
この改正は、平成29年4月1日以後の相続または贈与から適用されます。
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|2017年5月19日 金曜日
平成29年度税制改正 資産課税編 その2
平成29年度税制改正「財産評価の適正化」
1、 趣旨
「取引相場のない株式の株価の算出方法の見直し」については、事業承継促進のための税制措置の強化と位置付けられ、上場会社のグローバル連結経営の進展や株価の急激な変動が中小企業の円滑な事業承継を阻害することなく、中小企業等の実力を適切に反映した評価となるよう見直されました。
「株式保有特定会社の判定」は、新株予約権付社債が株価と連動して価額が形成されるのに対し株式保有特定会社の判定に含まれないため節税が可能となっていました。
「広大地評価の見直し」については、現行の広大地の評価は面積に応じて比例的に減額されるため、実際の道路負担に比して大きな減額が可能で節税に利用される事例もあったためです。
2、概要
(1)取引相場のない株式評価の見直し
①類似業種比準方式による株価の算出方法
一、類似業種の上場会社の株価については、2年間の平均金額が選択可能となりました。これは、上場企業の株価上昇局面における急激な変動を平準化する目的です。
二、比準要素である、配当金額、利益金額及び簿価純資産価額に連結決算を反映したものとなりました。上場企業の子会社を含めたグローバル経営を反映し過大な評価を見直すこととしました。
三、比準要素のウエイトを「1:1:1」(現行1:3:1)に改正されました。成長企業や好業績企業の負担を軽減する目的です。
四、会社規模の判定基準について、大会社及び中会社の適用範囲が拡大されました。時価純資産のウェイトが高い中会社の株価を抑える効果があります。
②株式保有特定会社の判定
株式保有特定会社の判定基準に、新株予約権付社債を加えることとなりました。これは、上場株式に代えて新株予約権付社債を非上場会社に出資して、その非上場会社の株式に類似業種比準価額を適用することで株価を圧縮する節税策に対応するためです。
(2)広大地評価の見直し
面積に応じて比例的に減額する現行の評価方法から、各土地の個性に応じて面積・形状(奥行、不整形)等に基づき評価する方法に見直し、適用要件を明確化することとなりました。評価方法の見直しにより実際の取引価額と評価額とのかい離を解消し、また、難解な適用要件の明確化を図るものです。
3、適用時期
この改正は、上記(2)の①は平成29年1月1日以後、(1)の②と(2)は、平成30年1月1日以後に相続等により取得した財産の評価から適用されます。
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|2017年5月12日 金曜日
平成29年度税制改正 資産課税編 その1
平成29年度の税制改正が3月31日に公布、4月1日より施行されています。資産課税の主な改正は三つあり「非上場株式等に係る納税猶予制度の緩和」、「相続税及び贈与税の納税義務者の見直し」、「財産評価の適正化」です。大きな制度改正こそありませんが、項目や適用時期が多岐にわたっています。
「非上場株式等に係る納税猶予制度の緩和」
1、趣旨
事業承継の早期かつ計画的な取り組みを促進する必要から、平成29年度の主な改正は、「要件の緩和」と「生前贈与の促進」の2点になります。
2、内容
(1)「要件の緩和」
①「セーフティネット規定の創設」
「セーフティネット規定の創設」とは、災害などで納税猶予制度の要件を満たさなくなっても、引き続き猶予が継続又は免除されることをいいます。具体的には、下記に掲げる場合に、雇用確保要件の緩和などが行われます。
イ、災害による資産の被害が大きい会社、
ロ、従業員の多くが属する事務所が被災した会社、
ハ、災害や主要取引先の倒産などにより売上高が大幅に減少した一定の会社
②「雇用確保要件の見直し」
人手不足に際し特に従業員の少ない小規模事業者に対する配慮を行い、具体的には、従業員5人未満の企業の従業員が1人減った場合に80%を下回っても(4人⇒3人(75%)・3人⇒2人(67%)・2人⇒1人(50%))、雇用要件を満たすものとされました。
(2)「生前贈与の促進」
①「相続時精算課税制度の併用」
納税猶予の取消時の高額な贈与税負担の不安を軽減することをいい、具体的には、贈与税の納税猶予の適用を受ける株式について、相続時精算課税の適用を可能とすることにより、高額の贈与税を負担せず相続税の負担で済むように改められました。
②「切替要件の見直し」
意欲のある中小企業者の事業承継・成長を支援するため、生前贈与後に贈与者が死亡し、相続税の納税猶予に切替する際の適用要件である中小企業者要件・非上場会社要件を撤廃しました。
(3)その他手続き要件の緩和
制度利用に伴う事務負担を軽減するために、資産管理会社要件の報告の簡素化や提出書類の削減が行われました。
3、適用時期
この改正は、平成29年1月1日以後の相続及び贈与から適用されます。
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|2016年12月9日 金曜日
平成29年度税制改正の行方(資産税編)⑤
経産省は、「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」「高度外国人材等の保有する国外財産に係る相続税等の見直し」「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度の見直し」「個人事業者の事業用資産に係る事業承継時の負担軽減措置の創設」を要望しています。
「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」
(1) 目的
我が国の経済の基盤を形成している中小企業の事業承継を円滑化することにより、中小企業の事業活動の継続を実現し、雇用の確保や地域経済の活力維持につなげることを目的としています。
(2) 内容
取引相場のない株式の評価方法について、①上場企業の株価は景気変動に応じて変動するが、中小企業に波及するまでには時間がかかることを踏まえ、中小企業の株価が著しく変動しないよう見直す、②上場企業がグローバルに連結経営で事業展開していることを踏まえ、株価評価の基礎となる上場企業の配当、利益及び純資産という比準要素を適切に見直すという内容です。
(3) 注目点
上場企業の株価の急激な変動により、取引相場のない株式の株価まで大きく変動する例が見受けられます。平成年度の税制改正大綱に検討事項として取り上げられましたが、本年度の要望に具体的評価方法が掲げられていません。少なくとも比準すべき株価を1年程度遡る、比準要素も3年前まで選択肢に入れるなどの見直しは考えられますが、実現は難しいでしょう。本来根本的な評価方法から見直すべきです。
「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度の見直し」
(1) 目的
中小企業の経営者の年齢について、そのピークは既に 66 歳に達しており、平均的な引退年齢が 70歳前後であることを考えると、経営者の早期かつ計画的な取組を促進する必要
があり事業承継の円滑化のより一層の推進が重要です。
(2) 内容
早期かつ計画的な事業承継に資する生前贈与を促進するための見直し、人手不足の中で円滑な事業承継に向けて早期に取り組む中小企業を支援するための雇用要件の見直し及びその他中小企業の経営や事業承継の実態を踏まえた制度等の見直しを行う。
(3) 注目点
非上場株式の納税猶予制度は、平成21年の制度創設以来少しずつ要件の整備緩和が行われ、適用件数も増加しつつあります。しかし、雇用要件や筆頭株主要件など制限が多いうえ、納税猶予割合も相続時は80%であり差額は相続税の納税が必要となります。要件の緩和・納税猶予割合を100%とする改正はぜひ実現してほしいと思います。
「個人事業者の事業用資産にかかる軽減税率の創設等」
(1)目的
小規模企業について事業の持続的な発展を図ることを目的として、「小規模企業振興基本法」が制定されました。これを踏まえて、小規模事業者の約6割を占める個人事業者の事業承継の円滑化を図る目的で制度の創設が要望されました。これにより雇用の維持、地域経済の活力維持につながることが期待されます。
(2)内容
① 一定の要件を達成していることについて、経済産業大臣の確認を受けた個人事業者が活用していた特定の資産に係る贈与税については、相続時精算課税を適用する。
② 当該贈与から5年間(又は贈与者が死亡するまでのどちらか短い方)、引き続き一定の要件を達成していることについて、経済産業大臣の確認を受け続けた場合には、贈与者が死亡した場合において生じる相続税の計算において、贈与時の課税価格を軽減する。
(3)注目点
個人事業者の事業承継制度は、相続税の増税により困難さが増しておりぜひ実現してほしいものです。事業用資産の範囲、相続税の軽減額が注目されます。
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