2016年12月9日 金曜日
平成29年度税制改正の行方(資産税編)⑤
経産省は、「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」「高度外国人材等の保有する国外財産に係る相続税等の見直し」「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度の見直し」「個人事業者の事業用資産に係る事業承継時の負担軽減措置の創設」を要望しています。
「取引相場のない株式の評価方式に関する見直し」
(1) 目的
我が国の経済の基盤を形成している中小企業の事業承継を円滑化することにより、中小企業の事業活動の継続を実現し、雇用の確保や地域経済の活力維持につなげることを目的としています。
(2) 内容
取引相場のない株式の評価方法について、①上場企業の株価は景気変動に応じて変動するが、中小企業に波及するまでには時間がかかることを踏まえ、中小企業の株価が著しく変動しないよう見直す、②上場企業がグローバルに連結経営で事業展開していることを踏まえ、株価評価の基礎となる上場企業の配当、利益及び純資産という比準要素を適切に見直すという内容です。
(3) 注目点
上場企業の株価の急激な変動により、取引相場のない株式の株価まで大きく変動する例が見受けられます。平成年度の税制改正大綱に検討事項として取り上げられましたが、本年度の要望に具体的評価方法が掲げられていません。少なくとも比準すべき株価を1年程度遡る、比準要素も3年前まで選択肢に入れるなどの見直しは考えられますが、実現は難しいでしょう。本来根本的な評価方法から見直すべきです。
「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度の見直し」
(1) 目的
中小企業の経営者の年齢について、そのピークは既に 66 歳に達しており、平均的な引退年齢が 70歳前後であることを考えると、経営者の早期かつ計画的な取組を促進する必要
があり事業承継の円滑化のより一層の推進が重要です。
(2) 内容
早期かつ計画的な事業承継に資する生前贈与を促進するための見直し、人手不足の中で円滑な事業承継に向けて早期に取り組む中小企業を支援するための雇用要件の見直し及びその他中小企業の経営や事業承継の実態を踏まえた制度等の見直しを行う。
(3) 注目点
非上場株式の納税猶予制度は、平成21年の制度創設以来少しずつ要件の整備緩和が行われ、適用件数も増加しつつあります。しかし、雇用要件や筆頭株主要件など制限が多いうえ、納税猶予割合も相続時は80%であり差額は相続税の納税が必要となります。要件の緩和・納税猶予割合を100%とする改正はぜひ実現してほしいと思います。
「個人事業者の事業用資産にかかる軽減税率の創設等」
(1)目的
小規模企業について事業の持続的な発展を図ることを目的として、「小規模企業振興基本法」が制定されました。これを踏まえて、小規模事業者の約6割を占める個人事業者の事業承継の円滑化を図る目的で制度の創設が要望されました。これにより雇用の維持、地域経済の活力維持につながることが期待されます。
(2)内容
① 一定の要件を達成していることについて、経済産業大臣の確認を受けた個人事業者が活用していた特定の資産に係る贈与税については、相続時精算課税を適用する。
② 当該贈与から5年間(又は贈与者が死亡するまでのどちらか短い方)、引き続き一定の要件を達成していることについて、経済産業大臣の確認を受け続けた場合には、贈与者が死亡した場合において生じる相続税の計算において、贈与時の課税価格を軽減する。
(3)注目点
個人事業者の事業承継制度は、相続税の増税により困難さが増しておりぜひ実現してほしいものです。事業用資産の範囲、相続税の軽減額が注目されます。
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|2016年12月8日 木曜日
平成29年度税制改正の行方(資産税編)④
厚労省は「地域に必要な医療を担う医療機関の事業の継続に関する税制の創設」「医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の延長等」等を要望しています。
「地域に必要な医療を担う医療機関の事業の継続に関する税制の創設
(1) 目的
過疎地域等の住民に良質かつ適切な医療を安定的に提供する観点から制度の創設が要望されています。
(2) 内容
過疎地域、離島地域等において必要な医療を提供する医療機関(医療法人等)について、一定の期間の事業継続等を要件として、事業の継続に関する相続税、贈与税等に係る納税を猶予し、一定の期間事業を継続した場合には猶予税額を免除する等の措置を講じます。
(3) 注目点
過疎地域は増えており、地域医療の継続が望まれています。制度の創設に賛成です。
農林水産省「山林についての相続税の納税猶予制度の拡充」
(1) 目的
森林経営計画に従った森林の整備及び保護を行う意欲ある森林所有者に対して、林業経営の効率化や継続確保を税制面から支援を行い、もって森林の有する多面的機能の発揮、林産物の供給及び利用に寄与すること
(2) 内容
対象山林の範囲、林業継続の要件、一定事由の場合の利子税の軽減、経営規模拡大要件の見直し・拡充が要望されています。
(3) 注目点
林業経営も厳しさを増す中、地方の活性化、環境面から制度の拡充が望まれます。
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|2016年12月5日 月曜日
相続税財産評価Q&A29
相続税財産評価Q&A29
Q39
倍率方式による評価の場合に、登記上の地積で固定資産税課税台帳に登録されていますが、実際のその土地の地積と異なるときは、どのように評価すればいいのでしょうか。
A39
相続税財産評価通達の8で、土地の評価を行う場合の土地の地積は、課税時期における実際の面積によるものとされています。ところが、固定資産税の評価は、縄伸びや縄縮み等のために実際の地積が土地登記簿上の地積と異なっても、すべて土地登記簿上の地積を基として算出することとされています。このような場合に単純にその宅地の固定資産税評価額に倍率を乗ずる方法で計算したのでは正しい評価額は得られません。
そこで、このように実際の地積と土地登記簿上の地積が異なる宅地を倍率方式で評価する場合には、次の算式によって実際の地積に対応する固定資産税評価額を求め、これに倍率を乗じて相続税評価額を計算することになります。
その宅地の固定資産税評価額 × (実際の地積/土地課税台帳の地籍)
Q40
倍率方式による評価の場合に、奥行逓減や角地などの画地調整のように固有の事情を考慮して、路線価方式と同様に斟酌される余地はないのでしょうか?
A40
倍率方式は、固定資産税評価額に倍率を乗じて計算する評価方法です。固定資産税評価額は、固定資産税評価基準により不整形地などの事情を斟酌して定められています。したがって、原則として倍率については重ねて斟酌することは認められません。
ただし、評価基準に定められた事由以外の理由により利用価値が著しく低下している宅地については評価減が認められています。
また、固定資産税評価額そのものが適正に評価されていない場合もありえます。地目の認定が現況と異なったり、奥行きや不整形地等の減額が適正になされていなかったりすることもあります。このような場合には、市町村に固定資産税の評価の適正化を求めることになります。
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|2016年12月2日 金曜日
平成29年度税制改正の行方(資産税編)③
金融庁は「上場株式等の相続税評価の見直し等」「死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ」を要望しています。
「上場株式等の相続税評価の見直し等」
(1) 目的
上場株式等と他の資産との比較における相続税の負担感の差を解消し、国民が必要な金融サービスを受けられるための環境整備を目的とします。
(2) 内容
1.上場株式等の評価について、相続時から申告期限までの価格変動リスクを
考慮したものとすること。
2.相続時以後、通常想定される価格変動リスクの範囲を超えて価格が著しく
下落した上場株式等については、評価の特例を設けること。
3.上場株式等の物納順位について、第1順位(国債・地方債・不動産・船
舶)の資産と同等となるよう、見直しを行うこと。
(3) 注目点
上場株式は、価格変動が大きく相続後遺産分割までの値下がりについて相続人の責に帰すのは酷です。要望では、相続時の価額の90%相当額を評価額とするよう求めていますが妥当な水準と思われます。一方物納順位では、換金性が高いにもかかわらず国債等・不動産に劣後するのは価格変動リスクを認めているからにほかなりません。どのように整合性をとるか注目されます。
「死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ」
(1) 目的
死亡保険金が遺族の生活資金としての役割を果たしており、世帯主を亡くした配偶者と未成年の子からなる世帯における生活資金の確保を目的としています。
(2) 内容
死亡保険金の相続税非課税限度額について、「配偶者分×500万円+未成年の被扶養法定相続人数×500 万円」を加算します。
(3) 注目点
被相続人が比較的若い場合には、それほど資産形成がなされておらず遺族の生活は死亡保険金で賄うケースが多いと考えられます。遺族の状況に応じて非課税額を変化させることには賛成します。
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